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第9回 JOCジュニアオリンピックカップ


総合優勝の堀創(左)と門間希美(右)

総合優勝の堀創(左)と門間希美(右)

僅差で男子総合2位となった中原栄

僅差で男子総合2位となった中原栄

男子総合3位の小西大介

男子総合3位の小西大介(撮影:小澤信太)

富山県 南砺市 桜ケ池クライミングセンター

'06年8月12〜14日


リザルト(PDF)
  男子 / 女子 / アンダー・ユースB+キッズ


 善し悪しは別にして、この大会は、“クライミング競技の甲子園”なのだろう。日本オリンピック委員会による冠、そして昨年よりの総務、文部科学両省の「スポーツ拠点づくり事業」認定。この後、この競技がどれほどにメジャーなものになっていくのかは分からないが、この“甲子園”の存在は、日本の競技クライミングの中で大きな意味を持っているし、これからもそれが変わらない事は間違いない。

 またこの大会は、青少年を対象とした多くの競技会がそうであるように、地元の人々の好意によって支えられている。ビレイヤーにせよアイソレーションスタッフにせよ、地元の方々がお盆休み返上で協力している。この方々なくしてはこの大会は、到底なりたたないのである。

 さて9回目を迎えて、ユース大会も安定期を迎えつつあるようだ。リザルトを見ても、勝つべき選手が確実に上位を占め、かつてのようにダークホースが上位に食い込むようなケースは少なくなった。それだけ全国各地の選手の情報が豊富になっているということだ。また若い選手が積極的にいろいろな大会に参加している、と言うことでもある。この点については、国体の影響が極めて大きい。それがなければ、わずか数年で若年層にクライミング競技が、これだけの広がりを見せることはなかったろう。

 参加者数はついに200名を越え、ジュニア、ユースA、ユースBは男子が103名、女子が51名。昨年からユースBとは独立して一つの年齢別グループとしたアンダーユースBが男子21名、女子16名。さらにこのアンダーユースBの下に10歳未満をキッズとして独立させ、男女合わせて11名が参加。総数は202名となった。昨年との比較で言えば、昨年は総数は172名だったので、30名増となる。男子はほぼ同数で女子の増加が10名なので、増分の大半は13歳以下の参加者によるものである。

 一昨年までは、ユースBの年齢の下限を設定しないことで、13歳以下の層に対応してきた。はっきり言ってしまえば、事前情報としてにこの年代からは誰が出てくるか分かっていた。「こういう子がいて、参加させれば本人にも刺激になるだろう」と言うことで、そうした子を参加させるために下限を設定しなかったのであり、10歳以下の子供が何人も参加する等という事態はまったくの想定外だったのである。

 それが昨年、一気にこの層の参加者が増加し、逆にユースBの中で扱うと男子の競技日程に影響することになるため、アンダーユースBとして男女混合で一つのグループを作った。それが今年はさらにこの年代の参加が増え、アンダーユースBを男女に分けて実施することも可能な人数となった。若年層が増えている――そのこと自体は良いことである。だが競技として考えると、そこに問題が無いわけではない。

 UIAAの国際大会では、もともとユースの区分は14歳から19歳まで――つまりユースBからジュニアまでで、アンダーユースBと言う区分は国内独自のものである。最近はUIAAでも“スパイダーキッズ”と言う名称で13歳以下の年齢別グループを設定している。低年齢層へのクライミングの普及は、日本よりも進んでいるのは間違いないだろうから、必然的な流れとも言えるのだろう。だが、国際大会の“スパイダーキッズ”は全てトップロープでの競技である。これは一見奇異に見える。欧米で、13歳以下の子供がリードしていないなどとは考えにくいからだ。

 なぜトップロープなのか?これは推測だが、子供用のハーネスで、メーカーがリードでの使用を保証している製品が存在しないからだろう。国内で出回っている製品を調べた範囲では、シットハーネス型は全てリードでの使用をはっきり否定している。全身用については、言及はないものが多い。しかしシットハーネスと全身用の双方を扱っているあるメーカーの製品で、より高い年齢を対象としたシットハーネス型はリードでの使用を保証せず、より小さな子供用としている全身用についてはリードでの使用の可否について言及がない。だがどう考えても、上の年齢の子供用はリード不可で下の年齢の子供用はリード可というのは理屈が通らない。これまた推測で申し訳ないのだが、子供用の全身用はそもそもトップロープ以外での使用を想定しておらず(今時のハーネスの傾向を考えれば、パッドのないハーネスをリード用と考えるのは難しい)、シットハーネス型は大人のリード用ハーネスと形状が近似のため、あえてリード不可を謳っている、ということではないだろうか。ちなみに、メーカーが子供用ハーネスのリードでの使用を保証しないのは、強度の問題ではない。単純な強度では大人のハーネスも子供用の変わらない。メーカー側としては、一般論として子供の判断力その他が――特に自然の岩場での――リードで要求されるレベルに達しているか疑問であること、また仮にハーネスが脱落しなかったとしても、子供の骨格では骨折などの傷害につながる可能性を否定できないということが理由のようである。

 したがって保護者の自己責任で、これらのハーネスを使わせて子供にリードさせることは、可能である。しかしリードの競技会で、メーカーがリードでの使用を保証していないハーネスの使用を認めて、もし事故が起こったら重大な責任問題となる。それが訴訟につながったら、競技主催者は絶対に勝てない。無論この年代は成長の個人差が大きいから大人用のハーネスが使用可能な子供もいるだろうが、それを事前にチェックして参加の可否を決めるのも難しいだろう。これがUIAAの“スパイダーキッズ”がトップロープである理由と思われる。

 さて今年のジュニアオリンピックカップ申込み締め切り後、参加者の身長、年齢のデータを確認したところ、大人用のハーネスが使用できるとは到底考えられないケースが何人かいることが分かった。これをどう扱うか検討した結果、UIAAの先例もあり昨年はアンダーユースBとして一括した13歳以下をさらに細分化し、10歳以下を“キッズ”として、トップロープでの競技とすることに急遽決定したのである。参加申込みの締め切り後の決定と言うことで、参加者の方々にはいささか混乱させる結果となったことは深くお詫びするとともに、競技会の安全かつ円滑な運営上の措置であったことはご理解いただきたい。

 これまで、ジュニアオリンピックでもJFAのユース選手権でも、このあたりの問題は意識してこなかった。一つには13歳以下の参加者が限られていたこと、そして従来は、そうした年代の参加者の大半は保護者がクライミングをやっているケースがほとんどで、こうした点については保護者を信頼し、その判断に任せてしていたということである。しかしクライミングの普及にともない、保護者がクライミングをしないケースが増えているようだ。かつては、クライミングを知らない親が自分の子供にクライミングをさせるなど、想像もできなかったものだが、今ではクライミングは水泳や体操と同じような習い事の一つで、ちょっと変わった部類のものになりつつあるのかもしれない。そうした保護者には、自分の子供が安全にリードできる状態にあるか、使っているハーネスは、リードでの使用を保証されているものであるかどうか、と言うような判断を求めるのは難しいだろう。そうした状況の中で、来年以降この年代をどのように扱って行くのか。

 最終決定はこれからだが、アンダーユースBに下限を設け、今年のキッズに相当する年齢別グループは設けないことになる可能性が高い。それには競技運営などとは、また異なる理由がある。競技は現代のクライミングの中で極めて重要な位置を占めている。それは事実だが同時に、競技がクライミングなのではない。料理で言えば、競技はスパイスや調味料であり、食材ではないのだ。果たして10歳以下の子供に競技をさせることが、文化としてのクライミングに必要な事であるか?と考えた時、そこには大きな疑問符をつけざるを得ないからである。

(山本 和幸:日山協クライミング常任委員)


ファイナルの堀

ファイナルの堀

セミファイナルの門間

セミファイナルの門間


撮影:北山 真


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