クライミングの技術提供が岩場解放につながった事例
奈良県・川上村 柏木の岩場
1980年代から開拓がはじまった近畿エリア最大の石灰岩壁は、、2008年に発生した死亡事故をきっかけに登攀禁止となる。
事故の発生以前、2005年ごろからローカル有志のグループが、苦情の対応、事故の処理などの地元対応を行なっていた。地元との信頼関係を構築するために、県からの公募援助金を得て村内にある文化財「大滝の磨崖(まがい)碑」の整備事業を計画し、地元へのアピールや恒久的な登攀許可を得ることを計画するが、公募に落選することで計画は頓挫。その矢先の事故発生で登攀場完全禁止となり、岩場利用の話を持ち出すことすらできないまま6年が経過する。
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そろそろ登攀解禁に向けてアクションを起こそうと考え始めた2012年ごろ、村が「大滝の磨崖碑」の整備を再開することになり、一気に事態が好転する。「大滝の磨崖碑」は吉野川右岸の「鎧掛け岩」と呼ばれる、高さ約40mの絶壁に「土倉翁造林頌徳記念」と文字が刻まれたもので、足場を組んでの整備作業には多額の費用が必要となる。登攀禁止のきっかけとなった事故以前に、整備事業を提案していたことから、改めてクライマーへの協力要請があった。
この要請に対し、クライマー側からは、高所作業を無償で行なうかわりに、対価として登攀禁止の解禁を打診。クライマーの専門的な高所作業技術提供の対価として、エリアの再開を求めたのだ。
この提案が受け入れられ、岩場の再開に向けて動き出す。各方面への交渉、岩場の所有者である共有区と協定書を交わし、閉じられていた間に荒廃したアプローチの整備や老朽化した支点の整備を行なった後、2016年9月、8年の沈黙を破り岩場は復活した。クライミングの技術が地元貢献につながる機会が幸運にも訪れたことはもちろんだが、その裏にはローカルの地道な活動があることはいうまでもない。
エリア情報【柏木】