JFAのルート整備基準
アンカーボルト(終了点、プロテクション)の整備
1.打ち替えの対象となるアンカー
- リングボルト、RCCボルト、M8オールアンカー(腐食の有無、材質にかかわらず)
- オールアンカー(M10以上)、カットアンカー、自工式、ヒルティタイプなどのエキスパンション型のうち、とくにスチール製で腐食の発生や変形が認められるもの。(写真1)
- 施工不良のもの(写真2)
- 位置が悪いもの
(岩がもろい、ホールドと干渉する、カラビナに負荷がかかる、
ロープの流れが悪い、リップやカンテに近いなど)
2. 交換の対象となるハンガー
- アルミハンガー
- 腐食や変形の認められるもの
- ハンガーが回転し横を向いてしまうもの(特に自家製ハンガーなど)
- 形状自体が危険なもの(不必要に大きい、バリがあるなど)(写真3)
- 目につくようなペイントが施されたもの
3. 交換に使用するアンカー・ハンガー
- ケミカルアンカー(Petz/コリノックス・バチノックス、FIXE/グルーイン、Hilt/全ネジM10・M12、グルーはHilty/ HY200・RE500、旭化成/撹拌不要アンプルなどを使用)(写真4)
- グージョン(材質はステンレス、Hilty /M10・12 長さは98mm、83mm、68mm)
- 脆い岩(凝灰岩など)、腐食の進みやすい岩質(石灰岩、海洋性環境の岩場など)にはケミカル、花崗岩のスラブ、緻密なチャートにはグージョンなどというようにその場の状況に合わせてアンカーを選択する。
終了点の整備
1.整備の対象となる終了点
ボルト類とスリングで作られているもの(写真5、写真6)
現在もっとも多いのがこのタイプ。
ボルトは状況により打ち替え、スリング類は撤去し、メタルタイプの終了点に替える。チェーンやワイヤーなどメタルだけで構成されているものでも、腐食が認められれば交換。また、要の部分がシャックルひとつなど強度的に不安なものは構成を変える。
立木にスリングで作られているもの
終了点に立木を使うルートは数多い。人工的支点を極力排除し自然を有効に利用するという考え方はもっともだが、人気ルートの場合は高負荷が繰り返しかかることにより枯れてしまうことがる。倒壊の危険性も増すため、自然保護の観点から立木の使用を止め、状況に応じて終了点用のボルトを新設する場合もある。
2.位置について
終了点の位置は基本的にオリジナルを尊重するが、次のような場合は終了点の位置を変更する場合もある。
例1) ルーフなどで、ロワーダウン時にリップとの深刻なロープ擦れを起こす場合
⇒初登者の了解を得て終了点を下げると共に、終了の仕方を明確にしていく
例2) 「レッジ・トゥ・レッジ」のクライミングの大原則から外れた位置に終了点のあるルート
⇒然るべき位置に移動(ほとんどの場合はオリジナルより上げることになる)
3.終了点の種類
状況に応じ、以下の中から最適なタイプのものを終了点として設置する。
- ラペルステーション
- チェーンタイプ
- リング付きハンガー
- ダブルリング
- V字アンカー
- ハンガー+マイロン+残地ビナ
- グルーインアンカーのみ
- その他
プロテクション用ボルト類の整備
1.位置
基本的にオリジナルの位置を尊重する。ケミカルの場合はできるかぎりオリジナルのボルトを撤去し、その穴を利用して設置する。同じ場所に打てない場合は、ある程度離す(10~20cm)必要があるので、多少の位置の変更は初登者の了解を得る。また、ロープの流れや岩質との関係上、オリジナルの位置から大きく離れてしまう場合も同様。そのうえで、オリジナルの位置が次のような場合は、積極的に変更を行なう。
a.あきらかな設置場所のミス
b.岩質との関係から最良の位置に打てなかったと思われるもの(ケミカルを使えば、ベストの位置に変更できる可能性あり)
c.ヌンチャクやスリングを、事前にセットすることを前提とした位置に打たれている場合
d.開拓時、最善とは言えない位置にとりあえず打ったものが、そのまま使われていることがあきらかな場合
以上に該当しないのであれば、そのルートの本質と初登者の意向を尊重し、たとえロングフォールの可能性があろうとも大幅な場所の変更は行わない。
2.数の増減
よほど理不尽な理由でランナウトを強要するものでなければ、例えロングフォールの危険があろうとも、初登者の意向を尊重し打ち足しは行わない。逆に不必要に数が多い場合は、状況に応じてボルト数を減らすこともある。
3.グラウンドアップのルート
トラディショナルな岩場にある、グラウンドアップスタイルで初登されたルートの打ち替えは、初登者と協議のうえ慎重に検討する。
4.フリー化されたルートの支点
ボルトラダーの人工ルートなどをフリー化したラインの場合、数多くの貧弱なボルトをプロテクションとして登られていることがある。それを整備する場合はそのすべてを打ち替えるのではなく、必要なものだけをリボルトし、不必要なものは状況に応じ、そのままにするか撤去する。ハングドッグ用に打たれた支点についても同様。
5.ナチュラルプロテクションが使える場合
トラディショナルな岩場にある、ナチュラルプロテクションと人工支点がミックスされたルートに限り、初登時に仕方なく打たれたピトンなどの支点が、現在のナチュラルギアでおきかえることができる場合は、それを撤去することもある。
視覚的な配慮
クライマー以外の一般観光客や登山者などが共存するような岩場では、全ての人工的支点は、岩と同色にペイントするか迷彩ハンガーを用いるなどして、できるだけ目立たないよう工夫する。
初登者・ローカルクライマーとの協議
基本的にすべての整備は初登者の了解を得てから行なうものとする。
その岩場に関連したローカル組織がある場合は、整備内容を事前に協議し、お互いの合意を得た上で整備を行なう。
また、その岩場の各ルートを熟知したクライマーの協力を仰ぎながら行うことが望ましい。